よくあるPDFアクセシビリティエラーTOP10と修正方法

PDFのアクセシビリティエラーには、よく出る決まったパターンがあります。 チェッカーが出す結果は文書ごとに違うように見えますが、実際に頻出するのはごく限られた種類です。この記事では、実務で遭遇頻度の高い10のエラーを取り上げ、それぞれ「症状 → 原因 → 修正手順 → 予防」の順にまとめました。エラー名から逆引きできる構成です。

この記事で分かること

  • 頻出エラーの原因と修正手順
  • Acrobatで直すか、元データ(Word・InDesign等)に戻るかの判断
  • そもそも発生させない再発防止策

※ ツール名・メニュー位置はAcrobatのバージョンとUI刷新で変わります。お使いのバージョンで名称が異なる場合は、相当する項目に読み替えてください。

Acrobatで直すか、元データに戻るか

修正には2つのルートがあります。

  • Acrobatで後付け修正: PDF単体を直す。少数・単発なら速い。ただし再書き出しでやり直しになる。
  • 元データを直して再書き出し: Word・InDesign・PowerPointの側を直す。手間はかかるが、再発せず量産にも耐える。

原則は「同じPDFを今後も更新するなら元データ、その場限りなら後付け」です。以下の各エラーでも、この観点で修正先を示します。

エラー逆引き早見表

#エラー重大度主な修正先修正の目安
1タグ付きPDFではない高元データ推奨大
2文書タイトルがない中Acrobatで可小
3言語が指定されていない中Acrobatで可小
4画像に代替テキストがない高どちらでも中
5読み上げ順序が視覚順と違う高元データ推奨中〜大
6見出しタグがない・階層が飛ぶ高元データ推奨中
7表にヘッダーセルがない高元データ推奨中〜大
8リンクテキストが「こちら」だけ中元データ推奨小
9しおりがない(長文)低〜中Acrobatで可小
10スキャン画像のみ・本文テキストなし高作り直し/OCR大

1. タグ付きPDFではない

  • 症状: チェッカーで「タグ付きPDF」が「不合格」になる。スクリーンリーダーがほぼ何も読めない、または表示順を無視して読む。
  • 原因: タグ(見出し・段落・図などの構造情報)を付けずに書き出した。「印刷」からのPDF生成や、古い書き出し設定でよく起きます。→ 詳しくは「タグ付きPDFとは」。
  • 修正手順:
    1. 元データがあるなら、そちらから作り直すのが最善です。Wordなら「アクセシビリティ用のドキュメント構造タグ」を有効にして書き出す(→「Wordで作る」)。
    2. 元データがない場合のみ、Acrobatの自動タグ付け機能を使います。ただし自動タグは誤りを含むため、必ず後述の読み上げ順・見出しを点検します。
  • 予防: 書き出し設定に「タグ付きPDF/構造をエクスポート」を必ず含める。テンプレート化して毎回同じ設定で出す。

2. 文書タイトルがない/ファイル名が表示される

  • 症状: ブラウザのタブに内容と無関係なファイル名(例: 20260704_final_v3.pdf)が表示され、読み上げでもそのファイル名が読まれる。
  • 原因: 文書プロパティの「タイトル」が空、または「表示にファイル名を使う」設定になっている。
  • 修正手順(Acrobatで可):
    1. 文書プロパティを開き、「タイトル」に内容が分かる名称を入れる。
    2. 「開き方」の「表示」設定を「ファイル名」ではなく「文書のタイトル」にする。
  • 予防: Word・InDesignのファイル情報(プロパティ)にタイトルを入れておくと、書き出し時に引き継がれます。

3. 言語が指定されていない

  • 症状: チェッカーで「主言語」が「不合格」になる。スクリーンリーダーが誤った言語の発音で読む(日本語文書を英語読みするなど)。
  • 原因: 文書の言語属性が未設定。
  • 修正手順(Acrobatで可): 文書プロパティの「言語」で主要言語(日本語なら日本語)を指定します。文書内に別言語のまとまった箇所があれば、その部分のタグにも言語を設定します。
  • 予防: 元データのアプリで文書の言語を設定しておく。

4. 画像に代替テキストがない

  • 症状: チェッカーで「図の代替テキスト」が「不合格」になる。図・写真・グラフが読み上げで飛ばされる、または無音になる。
  • 原因: Figureタグに代替テキスト(/Alt)がない。最も頻出するエラーのひとつです。
  • 修正手順(どちらでも):
    1. 元データで各画像に代替テキストを設定し、再書き出しするのが確実。
    2. Acrobat側で直す場合は、該当図に代替テキストを付与します。
  • 書き方の注意: 「画像」「図」だけでは意味がありません。その図が伝える情報を短く書きます。グラフは要点(何がどうなっているか)を言葉にし、詳細な数値は本文か表でも提供します。装飾目的の画像は「装飾」として扱い、読み上げ対象から外します。→ 書き方の詳細は「InDesignの代替テキスト」。
  • 予防: 画像を配置する段階で代替テキストも一緒に入れる運用にする。

5. 読み上げ順序が視覚順と一致しない

  • 症状: 読み上げが誌面の見た目の順序と違う。段組みが左右で混ざる、キャプションが本文に割り込む、など。
  • 原因: タグの並び順が論理的な読み順になっていない。自動タグ付けや複雑なレイアウトで起きがち。この項目はチェッカーでは「要手動チェック」で、機械では合否を判定できません。
  • 修正手順(元データ推奨):
    1. まず元データ側の順序(InDesignの記事構造・Wordの本文の流れ)を整えて書き出す。→「InDesignの読み上げ順」。
    2. PDF側で直す場合は、タグの並びを意味の順に並べ替えます。
    3. 仕上げに、できればスクリーンリーダーで通し聞きして確認します。
  • 予防: レイアウトを組む段階で「上から下・左から右」の論理順序を意識する。テキストボックスの乱雑な配置を避ける。

6. 見出しタグがない・階層が飛んでいる

  • 症状: 見出しが本文と区別されない。または H1 の次に H3 が来るなど階層が飛ぶ。スクリーンリーダーの「見出しジャンプ」で目次的に移動できない。
  • 原因: 元データで見出しスタイルを使わず、フォントサイズを大きくしただけで「見出しに見せて」いる。
  • 修正手順(元データ推奨): Word・InDesignで段落スタイル(見出し1・見出し2…)を正しく適用し、階層を飛ばさずに書き出します。PDF側でもタグの種類(H1/H2…)を修正できますが、元データを直さないと次回再発します。
  • 予防: 見出しは必ずスタイルで運用する。「大きい太字」で見出しを表現しない。

7. 表にヘッダーセルがない・構造が崩れている

  • 症状: チェッカーで表関連が不合格。読み上げでどの数値がどの見出しの列か分からなくなる。
  • 原因: 見出しセルが TH(ヘッダー)として指定されていない。またはセル結合が多く、各行の列数が揃っていない。
  • 修正手順(元データ推奨):
    1. 元データで見出し行/列を「ヘッダー」として設定する。
    2. セル結合の多い複雑な表は、表の設計自体を単純化するのが根本対策です。修正で無理に整えるより、レイアウトを見直す方が速いことがあります。
  • 予防: 表は「1セル1データ」を基本に、結合を最小限に。レイアウト目的で表機能を使わない。

8. リンクテキストが「こちら」だけ

  • 症状: 「詳しくはこちら」「PDFはこちら」が並ぶ。リンクだけを拾い読みすると行き先が分からない。
  • 原因: リンク文言に行き先の情報がない。チェッカーでは検出されにくいが、実使用で確実に困る問題です。
  • 修正手順(元データ推奨): リンク文言を「行き先が分かる言葉」に書き換えます(例: 「[こちら]の申請書」→「申請書(PDF)をダウンロード」)。
  • 予防: 原稿を書く段階で、リンクは行き先が分かる文言にする編集ルールを設ける。

9. 長文文書にしおり(ブックマーク)がない

  • 症状: 数十ページ以上あるのに、しおりがなく目的の章に飛べない。
  • 原因: 長文文書にしおりを付けていない。
  • 修正手順(Acrobatで可): 見出しタグからしおりを自動生成する、または手動で章立てのしおりを作ります。
  • 予防: 元データの見出しスタイルが整っていれば、書き出し時にしおりを自動生成できます。
  • 補足: 短い文書では必須ではありません(チェッカーもこの項目は一定ページ数以上の文書で確認します)。重大度は文書の長さ次第です。

10. スキャン画像のみで本文テキストがない

  • 症状: 紙をスキャンしただけのPDF。文字が画像なので、コピーも読み上げもできない。チェッカーで「画像のみのPDF」が「不合格」になる。
  • 原因: スキャン時にOCR(文字認識)をかけていない。最も抜本的な作り直しが必要なケース。
  • 修正手順:
    1. 可能なら元の電子データ(Word等)から作り直すのが最善です。OCRは万能ではなく、誤認識が残ります。
    2. 元データがない場合はOCRをかけてテキスト層を付与し、その上でタグ付け・読み順・代替テキストを整えます。OCR後も内容の突合が必要です。
  • 予防: 「紙をスキャンしてPDF公開」を運用から外し、電子データから直接PDFを作る。

修正の順番と判断基準

一度にすべてを直す必要はありません。次の順で進めると効率的です。

  1. 文書全体を無効にする問題から: タグなし(#1)、画像のみ(#10)、権限設定。
  2. 内容が伝わらない問題: 代替テキスト(#4)、読み上げ順(#5)、表(#7)、見出し(#6)。
  3. 使い勝手の問題: タイトル(#2)、言語(#3)、リンク文言(#8)、しおり(#9)。

そして「Acrobatで直すか、元データに戻るか」は、冒頭の原則どおり「今後も更新するPDFか」で決めます。同じ様式を毎年出すなら、元データとテンプレートを直す方が結局は速く、再発しません。

よくある誤解

  • 「不合格をゼロにすれば完了」ではありません。読み上げ順・代替テキストの内容の妥当性は機械では判定できず、人の確認が要ります(→「Acrobatチェッカー全項目解説」)。
  • 「テキストがコピーできる=アクセシブル」ではありません。順序やタグ構造が伴って初めて意味が通ります。

次の一歩


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